薬剤師が本当に価値提供できる場所をつくる──つなぐ薬局が挑む在宅医療の新しい形
今回お話を伺ったのは、ワイズ株式会社 CEO創業者 山内伴紀さん。
2016年に創業し、現在運営する「つなぐ薬局」は、在宅医療比率95%という全国的にも珍しい在宅特化型薬局です。
外来中心の薬局が一般的な中で、なぜここまで在宅に特化するのか。
その背景には、山内さん自身が薬剤師として現場で感じた違和感と、「もっと薬剤師は価値提供できる」という強い確信がありました。
今回のインタビューでは、創業の背景、つなぐ薬局が大切にしている理念、そして今後の展望について詳しく伺いました。
大学同期との再会から始まった創業
山内さんと共同創業者は大学時代の同期。
卒業後、それぞれ別の現場で経験を積んでいましたが、久しぶりの再会で自然と仕事の話になったそうです。
山内さんは当時、調剤薬局で働きながら在宅医療に関わり始めており、その面白さや可能性を強く感じていました。
一方、共同創業者は病院薬剤師として病棟業務に携わっており、多職種連携の中で薬剤師が果たす役割を日々実感していました。
話していく中で2人が感じたのは、「在宅医療は、病院で行われている高度な連携や薬学的介入を地域で実現できる場所ではないか」ということでした。
国の流れとしても在宅医療はこれから重要性が増していく。
その未来を見据えた時、「今やるべきはここだ」と感じ、在宅医療特化型薬局の立ち上げを決意したそうです。
「つまらない」と感じた薬剤師人生が変わった瞬間
山内さんは薬剤師としてのスタート当初、正直なところ“物足りなさ”を感じていたと話します。
小児科門前の薬局で働く中で、日々の業務はパターン化され、大学で学んだ薬学知識を深く活かせている感覚が薄かったそうです。
疑義照会も規格や日数の確認が中心で、「自分じゃなくてもできるのではないか」と感じることも少なくなかったといいます。
そんな中、転機となったのが在宅医療への参加でした。
医師の訪問診療に同行し、その場で薬について相談を受け、自分の提案がそのまま処方内容に反映される。
その瞬間、「学んできたことがそのまま患者様の役に立っている」という実感を得たそうです。
それは、これまで感じたことのない自己効力感だったといいます。
もっと学びたい。もっと役に立ちたい。
この経験が、今のつなぐ薬局の原点になっています。
在宅医療は“薬を届ける”だけではない
つなぐ薬局が考える在宅医療は、単なる訪問薬剤管理指導ではありません。
患者様の生活背景を理解し、服薬状況だけでなく、食事・介護・生活リズム・家族環境まで含めて考える。
さらに医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど、多職種と密接に連携しながら最適な支援を作っていく。
その中で薬剤師は、“処方薬だけではなく、生活課題も含めて課題解決にとりくむ専門家”としての役割を果たしているそうです。
山内さんは、「他で難しいと言われたケースでも、自分たちなら解決できる」と語ります。
それは決して大げさではなく、これまで積み重ねてきた経験があるからこその言葉でした。
地域の最後のセーフティネットとして、どこにも行き場がない患者様を受け止める。
それが、つなぐ薬局の存在意義です。
理念に込められた「寄り添い続ける力」
「ひとり一人の生活に寄り添い、医療・福祉をつなぎ、心を惜しまず支援する」
この理念が、つなぐ薬局の中心にあります。
“寄り添う”とは、単に優しく接することではありません。
患者様自身が持つ想いを尊重し、その人が望む生き方を支えること。
“医療と福祉をつなぐ”とは、薬や治療だけにフォーカスするのではなく、その人の生活の豊かさとは何かまで考えること。
そして”心を惜しまず支援する”とは、肉体的な自己犠牲ではなく、相手を想う気持ちで尽くすことで継続・共存していく最適な方法を常に考え続けていること意味してます。
一時的な頑張りではなく、長く安定して価値提供し続ける。
この考え方があるからこそ、つなぐ薬局には理念に共感した薬剤師が集まってくるそうです。
薬剤師の価値をもっと広げるために
山内さんが今考えているのは、「つなぐ薬局から物理的に届く範囲を超えて価値提供を広めたい」ということ。
これまで11年間、在宅医療の現場で積み重ねてきた知見を、もっと多くの薬剤師に広げていきたいと考えています。
その一つが、YouTubeや研修を通じた教育事業です。
現場で使えるリアルな知識を発信し、それを見た薬剤師が地域で実践する。
それが積み重なれば、日本全体の薬局の質そのものが上がっていく。
そんな未来を見据えています。
次の挑戦は「新しい外来薬局」
もう一つの大きな挑戦が、新しい形の外来薬局です。
在宅医療を経験してきたからこそ見える、外来患者様の“生活の裏側”。
一見元気そうに見えても、実際には服薬管理ができていなかったり、家族の支援が不足していたりすることがあります。
そうした背景を読み取れる薬剤師が外来に立つことで、病気が悪化する前に問題を見つけることができる。
これは、従来の外来薬局にはない新しい価値です。
さらにこの新しい外来薬局は、一般的な薬局と高度な在宅医療薬局の“中間地点”としての役割も担います。
まずはここで経験を積み、その先にさらに深い在宅医療へ進む。
そんな薬剤師の新しい成長ルートも作っていきたいと考えています。
地域医療の未来を変える薬局へ
今回のインタビューを通じて強く感じたのは、つなぐ薬局様が単に在宅医療をしている薬局ではないということでした。
薬剤師の専門性を最大限に活かし、患者様・その家族や関わる多職種、さらに医療・福祉すべてをつなぐ存在。
そして、薬剤師自身が誇りを持って働ける場所を作り続ける存在。
つなぐ薬局様が目指しているのは、薬局経営そのものではなく、“薬剤師という職業の未来”なのかもしれません。
これからの5年、10年でどんな形に進化していくのか。
今後の挑戦にも注目していきたいと思います。
薬局運営に役立つサービス(MEDIKLECT)
薬局naviでは、地域で活躍する薬局の取り組みを紹介しています。
MEDIKLECTでは、薬局運営を支える各種サービスも提供しています。
関連記事
-
「地域密着」と「働きやすさ」を両立する薬局へ|あさつき薬局が大切にする“人を想う薬局づくり” -
駅前立地と漢方対応で地域を支える|あけぼの薬局が目指す患者第一の薬局づくり -
地域の最期に寄り添う薬局へ|湘南調剤薬局が挑む在宅・ターミナルケア -
処方箋がなくても相談できる、地域に根ざした“ファーストアクセス”の薬局 -
「待たせない薬局を目指して|なごみ薬局が実践する患者様目線の薬局運営」 -
小児から在宅まで、地域に寄り添う薬局へ|フクロー薬局が目指す“入りやすい薬局”づくり 有限会社Four Woods One -
門前薬局から脱却し、“地域に必要とされる薬局”を目指す 株式会社共生ファーマシー -
「薬剤師は接客業」患者とのコミュニケーションと“待たせない薬局”を大切にする有限会社バードの考え方
