医薬品供給不安はなぜ起きるのか
ここ数年、多くの薬局で医薬品供給不安への対応が日常業務の一部となっています。
後発医薬品の出荷調整や限定出荷により、薬剤師が代替薬の検討や疑義照会に追われる光景は珍しくありません。
しかし、供給不安の原因は単純ではありません。
原薬不足、製造トラブル、物流の停滞、人手不足など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
さらに近年では、国際情勢の変化も医療現場へ影響を与えています。
2026年には中東情勢の緊迫化による原油価格やナフサ価格への影響が懸念されており、医療材料や医療用消耗品の供給にも影響が及ぶ可能性が指摘されています。
注射器、輸液バッグ、医療用チューブなど、多くの医療資材には石油化学製品が使用されています。
そのため、供給リスクは医薬品だけの問題ではなく、医療全体の課題として考える必要があります。
薬局現場にも広がる医療製品供給リスク
薬局現場では、
- 欠品対応
- 代替薬の選定
- 患者への説明
- 発注先変更
などの対応が継続的に発生しています。
また、供給不安は患者さんの不安にも直結します。
「いつもの薬がない」
「次回も同じ薬を受け取れるかわからない」
といった状況は、治療継続にも影響を与えかねません。
近年は医薬品だけでなく、軟膏容器や水剤瓶、分包紙などの医療材料などの供給リスクも課題となっています。
こうした問題に対し、個々の医療機関や薬局だけで対応するには限界があります。
なぜ病院や薬局だけでは解決できないのか
医療製品が患者さんへ届くまでには、多くの事業者が関わっています。
製薬企業が製造し、卸売業者が流通させ、病院や診療所、薬局が患者さんへ提供する。
さらに近年では、
- ITベンダー
- 物流事業者
- 医療機器メーカー
の役割も重要になっています。
つまり供給不安は、「薬局の問題」ではなく、「医療業界全体の問題」なのです。
一施設だけで解決できる課題ではなく、業界全体で情報共有を行いながら対応していく必要があります。
医療サプライチェーン可視化という考え方
こうした課題解決の鍵として注目されているのが、医療サプライチェーンの可視化です。
サプライチェーンとは、
製造
↓
流通
↓
保管
↓
使用
までの流れを指します。
もし医療業界全体で、
- 在庫状況
- 出荷状況
- 使用状況
などを把握できれば、
供給不足の早期発見や適切な在庫配置が可能になります。
また、
- 災害時の医療物資供給
- 医薬品回収対応
- 偽造医薬品対策
などにも活用できます。
医療の安全性と効率性を高めるためにも、サプライチェーン全体を見渡す視点が求められています。
医療DXの次の課題は「データ連携」
医療DXというと、
電子カルテ
電子処方箋
オンライン資格確認
などが注目されます。
しかし今後さらに重要になるのは、データ連携です。
医療現場には多くのシステムが存在していますが、十分に連携できているとは言えません。
また、生成AIの活用が進むなかで、
「データが整備されていること」
の重要性も高まっています。
医療製品の標準コードや製品マスタの整備、データ標準化などは、今後の医療DXを支える基盤になります。
AIを活用するためにも、まずは正確で共有可能なデータ環境を整備する必要があるのです。
業界横断で課題解決に取り組む動き
こうした課題に対し、医療業界では業界横断での取り組みも進められています。
その一つが、一般社団法人医療トレーサビリティ推進協議会の活動です。
同協議会には、
- 医療機関
- 製薬企業
- 医療機器企業
- 卸売業者
- 物流事業者
- ITベンダー
など、多様な関係者が参画しています。
また、
- 医療製品トレーサビリティ推進
- 全国規模のアンケート調査
- 実証実験(PoC)
- 医療DX情報発信
- 業界横断研究会
などを通じて、現場課題の把握と解決策の検討を進めています。
医療DXを一施設単位ではなく、業界全体で考える取り組みとして注目されています。
医療DXは「導入」から「連携」の時代へ
医療DXはこれまで、「システムを導入すること」に注目が集まっていました。
しかし今後は、「つながること」がより重要になります。
病院と薬局。
製薬企業と卸。
医療機関とITベンダー。
それぞれが保有する情報を適切につなぎ、医療全体で活用できる仕組みづくりが求められています。
医薬品供給不安、災害対応、生成AI活用など、今後の医療業界が直面する課題は、一施設だけでは解決できません。
だからこそ、医療DXは院内だけでは完結しないのです。
これからの医療DXには、「導入する力」だけでなく、「連携する力」が求められているのではないでしょうか。

