まとめ
厚生労働省は3月5日、令和8年4月1日適用の薬価基準改定を官報告示しました。 今回の薬価改定では、薬剤費ベースでマイナス4.02%、医療費ベースでマイナス0.86%の引き下げが実施されました。 特に注目すべきは、G1ルールの適用時期短縮と後発率計算における除外品目の増加です。 単なる薬価の引き下げにとどまらず、薬局経営に直結する「後発医薬品使用率(後発率)」にも大きな影響を及ぼす内容となりました。 |
単に薬剤費や医療費のコスト削減だけではなく、長期収載品に依存した医薬品使用構造からの脱却にあります。
これまでの政策では、後発医薬品の使用促進が主軸とされてきましたが、近年の供給不安を背景に、「使用促進」だけでなく「安定供給」も重視する方向へと政策の軸足が移りつつあります。
その象徴が、今回のG1ルールの見直しです。
G1ルールとは、長期収載品の薬価を段階的に後発医薬品と同程度まで引き下げる仕組みです。
今改定では、この適用開始時期が従来の「収載後10年」から「原則5年」へと大幅に短縮されました。
これにより、新たに59成分145品目(告示数)がG1ルールの対象となっています。
つまり、後発品の有無に関わらず収載から5年経過した時点で先発品の薬価が急速に引き下げられる仕組みとなります。
これまで後発品への切り替えによって評価されていた領域が、価格差そのものが消失する領域へと変化していくことになります。
今改定では、G1ルールの見直しに加えて、オーソライズド・ジェネリック(AG)およびバイオAGの薬価算定ルールも大きく変更されました。
(6)オーソライズド・ジェネリック(AG)・バイオ AG の取扱い
① バイオ AG の新規収載時の対応【基準改正】
○ 先行品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一のバイオ医薬品であって、後発品として薬事承認を受けたもの(バイオ AG)(今後新たに薬価収載される品目に限る)の薬価は、バイオ後続品(いわゆるバイオシミラー)との適切な競争環境を形成・維持する観点から、バイオ先行品の薬価と同額とすることとする。② オーソライズド・ジェネリック(AG)の新規収載時の対応
○ 後発品の適切な競争環境の形成・維持のため、先発品メーカーの許諾を受けて製造販売されるものであるオーソライズド・ジェネリック(AG)について、まずは、先発品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一の後発品(今後新たに薬価収載される品目に限る)の薬価は、先発品の薬価と同額とすることとする。【基準改正】
○ AGであるか否かを客観的に判断することが困難であることから、AGの把握方法については引き続き検討が必要であるため、薬価基準収載希望書に AGであるか否かを記載することを製造販売業者に求めることとする。【その他(通知改正)】③ AG・バイオAGの薬価改定時の対応【基準改正】
○ 先発品の薬価と同額で算定されたAG又はバイオAGについては、当該AG 及び先発品、当該バイオAG及びバイオ先行品について、薬価改定時にそれぞれ薬価を加重平均し、価格帯を集約することとする。【参照】厚生労働省 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第245回)議事次第(令和7年12月26日) 令和8年度薬価制度改革の骨子(案) 7ページ より抜粋
これまでAGは、一般的な後発医薬品と同様に、先発品の一定割合(通常は0.5倍、バイオAGは0.7倍)で薬価が設定されてきました。
しかし今改定では、新たに収載されるAGについては、先発医薬品と同額で算定されることとなりました。
なお、このルールの対象となるのは、2026年10月以降に収載されるAGであり、すでに収載されているAGは対象外とされています。
しかし、既存のAGについても影響がないわけではありません。
薬価改定時にAGと先発品の価格を集約する仕組みが導入されています。
直接的な同額収載ではないものの、将来的には価格差が縮小し実質的に同一価格帯へ収束していく可能性があります。
この見直しの背景には、中医協における「AGは実質的に長期収載品依存の延長である」という指摘があります。
AGは先発品と同一の製剤・製造ラインを用いることが多く、他の後発品メーカーとの競争が起こりにくい、実質先発品と変わりないという概念から、市場が固定化されやすいといった課題が指摘されていました。
製薬企業に対して「長期収載品・AG依存からの脱却」を促す方向性、つまりこれまでAGが持っていた「先発品と同等の品質で価格が安い」というメリットが消失することになります。
G1ルールの短縮とあわせて、後発医薬品市場の構造そのものを見直す動きであり、AGの位置づけも大きな転換点を迎えていると言えるでしょう。
後発率(数量シェア)の算出において重要なのが、
☆(白星):後発品と同額またはそれ以下の先発品
★(黒星):先発品と同額またはそれ以上の後発品
といった「除外品目」の存在です。
これらは、後発率の計算対象から除外されます。
G1ルールの前倒し適用により、先発品の薬価が急速に低下することで、☆印(先発品)が増加する傾向が強まります。
その結果、これまで後発率を押し上げていた成分が、計算対象から外れるという事態が起こります。
薬局としては、新設された「地域支援・医薬品供給対応体制加算1(27点)」算定のために後発医薬品の使用割合を85%以上でキープしたいと思うところもあります。
しかし、制度の構造変化により、後発品を選択しているにもかかわらず後発率が上がらない、あるいは、「後発率が急に下がった」など、薬局の努力だけではカバーできない部分が出てくる可能性があります。
今改定では、バイオ医薬品領域にも大きな変化が見られます。
具体的には、バイオシミラーが存在する先行品(例:アバスチン、レミケードなど)12成分41品目に対して、新たにG1ルールが適用されました。
従来、バイオ医薬品は価格が高く、切り替えのハードルが高い、使用実態が固定化しやすい領域でした。
しかし、先行品の薬価が強制的に引き下げられることで、バイオシミラーへの切り替えが現実的な選択肢になってきています。
今後は、バイオシミラーの採用が後発率維持の重要な要素となる可能性があります。
今改定では、後発医薬品メーカーに対する評価制度も導入されました。
具体的には、企業指標に基づく A・B・Cの3区分が新設され、A区分(38社)は供給体制が優れている企業と評価されています。
A区分の品目は、価格帯集約の対象外とされ、薬価面で優遇される仕組みとなっています。
これにより薬局は、後発率の維持だけでなく供給の安定性を踏まえたメーカー選択が求められるようになります。
今回の薬価改定は、
・G1ルールの短縮
・AGルールの変更
・除外品目の増加
・バイオ領域への拡大
・企業区分の導入
といった複数の要素が組み合わさることで、後発率そのものの「構造」を変える改定となっています。
今後は、単純な後発品への切り替えではなく、制度構造を理解した上での戦略的な対応が不可欠です。
具体的には、
・除外品目の影響を踏まえた後発率管理
・バイオシミラーの活用
・供給安定性を重視したメーカー選択
などが重要になります。
今改定は、薬局にとって厳しい側面もありますが、「量」から「質」への評価転換という大きな流れの中に位置づけられます。
制度の変化を正しく理解し、柔軟に対応していくことが、これからの薬局経営に求められるのかもしれません。


