2026年10月13日、日東メディック株式会社はヘパリン類似物質ローション0.3%『NIT』の一部ロットについて自主回収(クラスII)を開始しました。
製品から、ニトロソアミン化合物である「N-ニトロソジイソプロパノールアミン」が暫定管理値を超えて検出されたことが理由です。
PMDAにも同日、回収情報が掲載されています。
【参照】血行促進・皮膚保湿剤 ヘパリン類似物質ローション 0.3%「NIT」 ニトロソアミン化合物検出及び自主回収(クラスⅡ)に関するお知らせ(2026年10月 日東メディック株式会社)より抜粋
ところが今回の回収をめぐっては、インターネットやSNS上で情報が急速に広がり、回収対象ではないヘパリン類似物質製剤まで不安視される状況もみられました。
「ヘパリン類似物質は全部危険なの?」
「クリームや軟膏も回収対象なの?」
「他メーカーの製品も同じなの?」
といった疑問を持った患者さんも少なくないでしょう。
そこで今回は、PMDAと製造販売元の一次情報をもとに、何が回収対象なのか、ニトロソアミンとは何か、薬局ではどのような説明が必要なのかを整理します。
何が自主回収されたのか
今回回収対象となったのは、日東メディック株式会社が製造販売する
ヘパリン類似物質ローション0.3%『NIT』
です。
対象は50g・100g製品のうち、指定された製造ロットです。
製造から一定期間が経過した製品の一部で、欧州ガイドラインに基づいて設定された暫定管理値を超えるニトロソアミン類が検出されたため、2026年10月13日から自主回収が始まりました。
ここでまず確認しておきたいのは、「ヘパリン類似物質」という成分全体が回収されたわけではないということです。
ヘパリン類似物質すべてが回収対象ではない
今回の回収対象は、あくまで日東メディックの「ヘパリン類似物質ローション0.3%『NIT』」の対象ロットです。
ヘパリン類似物質には、
- ローション
- クリーム
- 軟膏
- スプレー
など複数の剤形があり、さらに複数のメーカーから製品が販売されています。
そのため、
「ヘパリン類似物質=すべて回収対象」
「ローション以外のクリームや軟膏も同じ問題がある」
「他メーカー品も危険」
と受け取るのは正確ではありません。
今回PMDAが公表している回収情報は、製品名・製造販売業者・対象ロットまで明確に限定されています。
患者さんから問い合わせを受けた場合は、まず製品名とメーカー名、必要に応じてロット番号を確認することが大切です。
ニトロソアミンとは?「発がん性」という言葉をどう受け止めるか
ニトロソアミン類は、医薬品の製造や保存の過程などで生成する可能性がある化合物です。
PMDAではこれまでにも、複数の医薬品でニトロソアミン類が検出された事例を受け、製造販売業者に自主点検や低減・管理を求めています。
【参照】PMDA 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 安全対策義務 医薬品におけるニトロソアミン類混入リスクへの対策
今回、「発がん性」という言葉が大きく報じられたことで、不安を感じた方も多かったと考えられます。
ただし、「ニトロソアミンが検出された」ことと、「その製品を使用した人にがんが発生する」ことは同じではありません。
今回の回収概要では、製造販売元が非臨床情報、公表文献、臨床安全性情報などを確認した結果、N-ニトロソジイソプロパノールアミンに関連する発がん性を示唆する重篤な健康被害の報告は確認されておらず、本件に起因する健康被害の報告も受けていないとしています。
不安をあおるのではなく、こうした事実もあわせて伝えることが大切です。
クラスII回収とはどういう意味?
今回の自主回収はクラスIIです。
PMDAではクラスIIについて、
一時的、または医学的に治癒可能な健康被害が生じる可能性がある場合、あるいは重篤な健康被害のおそれはまず考えられない場合
と定義しています。
つまり、クラスIのように「重篤な健康被害や死亡につながる可能性がある」という位置づけではありません。
もちろん、回収対象製品を軽視してよいという意味ではありませんが、「回収=すぐに重大な健康被害が起こる」と受け止めるのも正確ではありません。
なぜ情報がここまで広がったのか
今回のケースでは、いくつかの要因が重なったと考えられます。
ひとつは、「発がん性」という言葉のインパクトです。
ヘパリン類似物質は、皮脂欠乏症などに幅広く使われる身近な薬です。
乳児や幼児など、子どもにも多く処方されます。
日常的に使われている薬だからこそ、「自分や家族が使っている薬は大丈夫なのか」と不安が広がりやすかったのでしょう。
もうひとつは、ネット上で情報が短く切り取られたことです。
「ヘパリン類似物質」
「自主回収」
「発がん性」
「医療機関へ問い合わせ」
といった言葉だけが独立して広がると、対象製品や対象ロットといった最も重要な情報が抜け落ちてしまいます。
その結果、回収対象ではないクリームや軟膏、他メーカーの製品まで不安視されることにつながります。
患者から問い合わせを受けたとき、薬局ではどう対応する?
薬局では、まず患者さんが使用している製品を確認します。
確認したいのは、
- 製品名
- メーカー名
- 剤形
- 必要に応じてロット番号
です。
そのうえで、今回の回収対象に該当するかをPMDAやメーカーの一次情報から確認します。
対象外であれば、
「今回の回収はこの製品には該当しません」
と明確に伝えるだけでも、患者さんの不安をかなり減らせます。
一方、対象製品であった場合は、薬局で確認できる情報を説明したうえで、必要に応じて製造販売元へ案内します。
「医療機関へ問い合わせ」だけで終わらせない
今回、ネット上では「医療機関へ問い合わせを」という案内も広がりました。
もちろん、処方内容や治療継続については、医師や薬剤師への相談が必要な場合があります。
一方で、
- なぜ回収されたのか
- どのロットが対象なのか
- ニトロソアミン検出の詳細
- メーカーとしての安全性評価
- 回収や流通に関する具体的な対応
といった内容は、医療機関だけでは十分に回答できないこともあります。
今回、日東メディックはおくすり相談窓口を設け、注文・流通以外の問い合わせにも対応しています。
そのため、
まず薬局や医療機関で確認する
↓
回答できない内容はメーカー相談窓口へつなぐ
という流れも、一つの現実的な対応でしょう。
薬剤師だからこそ、正確な情報を整理して伝えたい
今回の件で改めて感じるのは、医薬品情報は「早さ」だけでなく「正確さ」も同じくらい大切だということです。
「発がん性」という言葉だけを見れば、誰でも不安になります。
まして、小さな子どもから高齢者まで幅広く使われている身近な薬であれば、なおさらです。
だからこそ薬剤師には、
- 何が事実なのか
- 何が回収対象なのか
- 何がまだ分かっていないのか
- どこに問い合わせればよいのか
を整理して伝える役割があります。
情報が一人歩きしやすい時代だからこそ、一次情報に戻って確認すること。
そして、患者さんの不安を否定するのではなく、正しい情報をもとにひとつずつ整理していくこと。
今回の自主回収は、その大切さを改めて考えさせられる事例といえそうです。

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